気胸について
北京堂代表浅野先生が、気胸についての質問に回答されているものを引用させていただきます。
以下『北京堂ホームページより抜粋』
問い:鍼をしたら深呼吸すると苦しい。
回答:これは肺に鍼が刺さり、すぐに抜かなかったため起きたものです。肺に鍼ほどの穴が開いても、すぐに塞がりますから問題がありませんが、肺に鍼が刺さったまま呼吸をしますと、鍼は胸壁で固定されており、呼吸して肺が体内で動くために切れてしまいます。そのため肺と胸膜の間に空気が入り、肺が拡がらなくなって呼吸できません。
患者の対策
解剖の知識を持った鍼灸院で治療しましょう。治療は、重症ならばアスピレーターを胸壁へ刺して、空気を抜きます。傷が治れば完治します。後遺症は残りません。
これに関して電話の問い合わせが多いので、少し詳しく回答します。
鍼事故で最も多いのが気胸です。刺鍼による事故では、一般に刺鍼した夜から胸が痛くなります。しかし重症の場合では、鍼を抜いて直ちに、あるいは20分後から痛くなったり苦しくなったりします。
症状は、胸の痛み、激しい咳が出る、深呼吸すると痛む、心臓が痛む、横になると苦しかったり胸が痛む、姿勢を変えたときに胸のなかからゴボコボと気泡が動く音がするなどです。
少し胸が痛む程度では、気胸が軽度なので、安静にしていれば自然に治ります。だいたい3日ぐらいで症状が治まり、2週間ぐらいで空気が完全に吸収されます。鍼して少し胸が痛い程度では、気胸とは断言できません。
激しい咳が出るときは、胸膜が刺激されて咳が出ているので、かなりひどい気胸です。 心臓が苦しいのは、一方に空気が入るため、心臓が健康な方に向かって押されるためです。両胸が痛ければ、両肺に気胸が起きている可能性があるので、救急車で病院へ行ったほうがよいと思います。特に夜間はそうです。片肺ならば問題がありませんが、両肺の気胸では死ぬ危険性もあります。
何科へ行くのですか?
外科です。
費用は?
注射器で空気抜く程度なら1万円ちょっとです。 自然に気胸が起きることもあります。若くて痩せ型の背が高い男性に多いです。
鍼をした当日に気胸が起きれば、だいたい鍼のせいですから治療費を払って貰えると思います。
治っても通勤途中に胸が苦しくなって、電車へ駆け込めなくなるのではないか? と心配する人もありますが、そうした心配は全くありません。病院でレントゲンを撮って貰ったら、肺が縮んでいるので判ります。肺が縮むために呼吸しても動かなくなり、傷口が早く塞がるのです。
これ以上のことは、一般の気胸と同じですので、気胸で検索してください。
鍼灸師の防止
背中では、背骨から離れた場所に刺鍼してはなりません。そして背骨に鍼先を当てて置鍼します。骨に当たらなければ、肺に刺さっていることなので、すぐに抜きます。刺入を速くして、呼吸する前に抜鍼します。
原則として、背中、胸、肩には刺鍼ができないと思ってください。特に重要なのは、背兪穴への刺鍼は、気胸が起きる可能性があることを知ってください。
二行線ラインは、まず気胸が起きます。したがって肩甲骨内側ラインは絶対に刺鍼できないと思ってください。そこへ刺鍼するならば、円皮鍼とか梅花鍼とかにすべきです。
普通の背兪穴ですが、背兪穴の下には肺があります。そこで中国では倒八字という刺入方法を使い、45度ぐらいの角度で脊柱へ向けて刺入します。しかし45度という角度を目分量で取るのは難しく、30度になったり60度になったりします。30度ならば背骨を跳び越えて反対側の肺へ刺さる危険性があり、60度では角度が深すぎて椎体へ鍼が当たり、肺に鍼が刺さってしまいます。
そこで北京堂では、棘突起から五分の華佗夾脊穴を使っています。これならば背骨の中心から1.5㎝しか離れていないので、直刺すれば確実に背骨で止まり、肺には入らないのです。また間違って棘突起内へ入り、脊髄へ行ったにしても、脊髄なら硬膜へ当たった時点で、足に電気のようなピリピリ感(足太陽膀胱経)が起こります。だから、それ以上刺さずに抜いて方向を変えるため、脊髄を傷つける恐れはありません。それに反して肺へ刺さったときには、術者の手応えもないのですが、患者も痛みを感じないので、肺へ刺さっていることが全く判りません。
私も昔は背兪穴を45度角で刺入していましたが、その効果は華佗夾脊穴を直刺したほうが勝ると思います。危険がなくて効果が高い方法を採るか、危険を伴って効果も悪い方法を採るかですが、やはり安全で確実な方法が勝るということで、北京堂系列では、背中へ刺鍼するときに背骨の横1.5寸ではなくて、横1.5㎝を直刺しています。