舌の痛み・舌痛症 |
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舌の痛み(舌痛症)原因のわからない舌の痛みが続く。舌の一部分がピリピリ、ヒリヒリ痛む。痺れたような感覚がある。舌を動かすのは問題ない。触っても痛くない、食事は問題なく食べられる。病院で検査をするが異常はない。
症例3
40代男性 会社員 2023年12月受診
1年前から舌の中央がヒリヒリと痛むようになる。耳鼻科を受診し各種検査を受診するも、特に異常はみられず、塗り薬を処方されて、様子をみてださいといわれる。特に変化もみられなかったため当院を受診。
主訴
舌の中央がヒリヒリする
その他症状
特になし
既往歴
頸部ヘルニア
所見
舌の動き問題なし
触覚問題なし
味覚が若干落ちているが自覚はない
口渇なし
舌の苔なども、異常はみられない
歯舌痕が舌の辺縁につく
白目の充血
ツボ、筋肉
翳風、中斜角筋、後斜角筋、頭板状筋、頸板状筋、後頭下筋、上頸神経節刺鍼
施術
1回目の施術では、頸部(前側、後側)、肩上部への刺鍼
2回目の施術、1回目の施術翌日、ふわっと楽になった。ただすぐに同症状に戻る
3回目の施術、後頭部から下顎部に向けての刺鍼、翳風穴への刺鍼を追加。2日くらいは軽減した状態が続く。患者さんが少しづつ変化を自覚で着るようになっている、
4回目の施術、施術後の軽減した状態が長く続くようになっている。
5回目の施術、症状が気にならない時もある。
考察
仕事の忙しさやストレスなど、患者さんは人並みのものとおっしゃっていましたが、40代後半ということで体の弱り、ホルモンバランスの変化、仕事量、仕事に対する責任など、様々な緊張にさらされています。
舌に限らず口腔内の異常の場合、例えば歯や歯ぐきなどでも、口腔内自体の緊張も考えられます。
噛み締めや歯軋りはわかりやすいと思います。それ以外にも舌を上顎に押し付けていたり、口腔内の皮を噛んでいたり、無意識にやる癖のようなものは様々です。
歯舌痕があるということで、舌を歯に押し当てていることが考えられます。実際に患者さんご自身もやっている自覚があるとおっしゃっていました。それを長時間していると当然舌自体の緊張、血流不足、疲労などが考えられ、それによっての感覚異常をきたしていたとも考えられます。
鍼での施術だけでなく、口腔のストレッチ、舌のストレッチや体操をやってもらうようにしました。
また今説明したようなことを患者さんにお伝えし、口腔内の緊張を溜めないように、あるいは緊張状態の時、仕事中の時に力を入れすぎないように気をつけてもらうようにしました。
症例2
70代女性 無職 2023年12月受診
3、4年前に、歯の治療でブリッジ(ブッリジ治療はこちら)がずれていたため、歯が常に舌に当たっている感覚が続き、舌が凝るような感覚になり、その後舌の右側面がヒリヒリと感じるようになる。
主訴
舌の右側面の違和感(ヒリヒリする)
その他症状
特になし
既往歴
特になし
所見
耳鼻科、ペインクリニックを受診し、各種検査を受診するも、異常はなし。
舌の動き問題なし
痛み、触覚問題なし
味覚に異常は感じないが、唾液が酸っぱく感じる。
口渇なし
舌の苔なども、異常はみられない
ツボ、筋肉
頸部夾脊、天柱、風池、完骨、下関、翳風。中斜角筋、後斜角筋、頭板状筋、頸板状筋、後頭下筋。
施術
1回目の施術では、頸や肩のこりの緩和に重点をおいて施術。
2回目の施術、1回目の施術直後に症状が軽減したが、数日で元に戻る。
3回目の施術、後頭部から下顎部に向けて深刺し、外側翼突筋、内側翼突筋への刺鍼を行う。
4回目の施術、施術後よく寝られるようになり、歯に触れる感覚など症状の軽減を感じる。
5回目の施術、症状は軽減されるが、気になるのは変わらない。
考察
大きな病院を受診し、検査を行っても原因がよくわからないものでしたが、ブリッジによる舌への継続的が大きな要因になるものでした。
皆さんも経験があると思いますが、口腔内に小さな異物がある、口内炎がある、歯が痛いなどのように、少しの刺激でもかなりのストレスになります。しかもそれが四六時中です。
そんな不快な舌への刺激が続くことにより、舌の感覚神経の刺激を感受するシステムにエラーが発生したのではないかと考えられます。
通常感じ取った刺激を神経を介して、神経パルスとして脳に送ります。その神経パルスを受け取って、舌に異物が当たっていると脳は判断し、不快、痛み、異物、ストレスなどとして、我々は自覚します。
一過性のものであれば、それがなくなったら、神経パルスがきていないから、症状として自覚しなくなる。
しかし、継続的に刺激が加わり、ストレスとして不快に感じていたために、脳に過剰に神経パルスを送っていたのではないでしょうか。それによって、過敏になり、ブリッジによって当たっていたものがなくなっても、誤作動として神経が過敏に反応して、痛みや違和感(ヒリヒリ)として感じものが残ってしまったのではないかと考えられます。
今回、5回では大きな変化が出なかった症例です。施術方針としては、ストレスや不快なものの蓄積とは逆のことを行う。
つまり、痛みや不快感を感じない状態を長くする。常にあった感覚を、少しでも減らすということです。時間的な長さ、症状の強さなど、少しでも軽減し、その軽減した時間が長くなってくれば、意識がそこに集中しなくなるので、気にならなくなってきます。
施術効果とのバランスとなりますが、なかなかはっきりと何回で症状がなくなるとは言えないので、歯痒いところです。
症例1
30代男性 デスクワーク 2014年9月受診
主訴
舌の左側面の違和感(常に触れている、ピリピリする)
その他症状
頸、肩のこり、耳鳴り、冷え性、下腿のこむら返り。
既往歴
急性腰痛、腰部椎間板ヘルニア。
所見
触っても痛みが増すわけではなく、舌の動きも問題ない。味覚障害なし。病院で脳検査をするも問題なし。病院では原因不明といわれる。
ツボ、筋肉
頸部夾脊、天柱、風池、完骨、百会。中斜角筋、後斜角筋、頭板状筋、頸板状筋、後頭下筋。
施術
1回目の施術では、頸や肩のこりの緩和に重点をおいて施術。
2回目の施術、1回目の施術で舌の感覚に変化がみられなかったので、下顎神経への刺激を行うため、下関穴(頬の骨のあるすぐ下)への深刺をする。
3回目の施術、舌の違和感はほとんどなくなったので、頸、肩こりの治療をして終了する。
考察
鍼灸の臨床現場にいると、このような西洋医学では原因不明といわれる症状に遭遇することは少なくない。ただ、所謂東洋医学的な気の流れや、臓腑の問題に当てはめなくても、解剖学的に考察してみると、解決することがあります。
今回のような舌の感覚(触れる、痛み、温冷)は、脳神経の三叉神経の枝である下顎神経(舌神経)が司っています。その他の味覚は舌咽神経、舌の運動は舌下神経となっているので、三叉神経の枝である下顎神経(舌神経)に関連する障害と考えることができます。
実際に、味覚に問題はないし、舌を動かしてもらいましたが何ら問題ありませんでした。また、来院前に病院でCT検査を受けて脳に異常はなかったということで、脳からの影響は除外できます。
また、この方のしゃべり方が他の方と比べ、口を開けて話すようなじゃべり方ではなかったので、咀嚼筋の緊張が関連しているのではないかと考えました。咀嚼筋は舌の感覚を司る下顎神経と同じ神経の神経支配を受けていますので、筋肉の緊張が神経に影響を与えて、今回の症状になったということが十分に考えられます。
全ての舌痛症や舌の違和感に対して、このやり方が有効とは思いませんが、舌神経の障害、或いは咀嚼筋の緊張でこういった症状が出る場合もあります。また、今回の患者さんは、病院での検査をやっているので、重篤な疾患を除外できています。病院と鍼灸院をうまく使い分けて利用できれば、患者さんにとっても不安なく、最短で症状の改善に向かっていけるのではないでしょうか。